睡眠障害の症状
睡眠障害は、不眠、過眠のほかにも多様な症状がある。
- 不眠
- 過眠
- 睡眠スケジュールのずれ
- 睡眠維持困難
- 中途覚醒・早期覚醒
- 入眠障害
- 回復感・休息感の欠如
不眠症の定義
医学的には、2005年に発表された睡眠障害国際分類改訂版によって
- 入眠困難、睡眠維持困難、早期覚醒、回復感欠如などの夜間の睡眠困難
- 適切なタイミングと適切な環境下にも拘わらず症状が生じていること
- 夜間の睡眠困難により、疲労、不調感、注意・集中力低下、気分変調など日中の問題が生じていること
これら全てに該当する場合に、「不眠症」と定義されている。
一方、仕事や遊びなどの活動のために、適切な時間帯に就寝できないなど社会生活環境による量的な睡眠不足は、不眠症ではなく、断眠として区別されている。
不眠の原因
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一過性不眠からの慢性化
次の日に重要な予定があるなど入眠時の不安や気がかりがきっかけで一時的な不眠に陥り、その後、予定や不安材料が解消されても、今度は不眠を恐れる気持ちが不安となって「不眠恐怖」となり、慢性的な不眠に転じるもの。
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睡眠前のカフェイン摂取
カフェインの覚醒作用は4~5時間持続する。コーヒーの種類によって1杯あたりのカフェイン含有量は、約100~300mg。
最近になって1日のカフェイン摂取量は400mgまでと提唱され始めたが、認知度は低い。さらに1日あたり250mg異常のカフェインを摂取すると、睡眠の質が低下することも確認されている。DSM-IV-TRによると、1日あたり250mg以上のカフェイン摂取は、焦燥感(不安)、神経過敏、興奮、不眠、顔面紅潮、悪心、頻尿、頻脈などカフェイン中毒の症状が出現しはじめる。精神症状を患っている人は悪化しやすい。進行すると悪化しカフェイン中毒となる。
カフェイン依存は、慢性症状の場合、アルコール依存同様自分では自覚しづらい。
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薬による副作用
降圧剤、抗精神病薬、抗パーキンソン病薬など、インターフェロンなど慢性的に服用する薬の副作用として不眠症が生じるものがある。
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睡眠時無呼吸症候群
睡眠時の呼吸障害による睡眠の質的低下が原因となる。
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レストレスレッグス(むずむず脚症候群)
就寝時に下肢がむずむずする、ほてる、深部がかゆいなど異常な感覚が生じ、寝付くことができなくなる病気。ドーパミン機能低下が原因と考えられている。この場合、通常の睡眠薬では効果を得られず、ドーパミン作動薬を眠前投与して対処する。また鉄分の欠乏が関連していると考えられる。
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周期性四肢運動障害
睡眠中に四肢の不随意運動が繰り返され、眠りが浅くなったり途中覚醒が引き起こされたりする障害。原因や対処法は、レストレスレッグスと同じ。
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アカシジア
当精神病薬の副作用や依存物質の離脱症状として、レストレスレッグスや周期性四肢運動障害と同じ症状がみられる病気。
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うつ病
うつ病の初期症状時には不眠の症状だけを訴える場合がある。入眠障害、早期覚醒、休息感欠如、起床時の離床困難が特徴的な症状である。気分の落ち込み、意欲・集中力の低下、不安感などを伴う。この場合、睡眠薬の服用のみでは改善は期待できず、うつ病治療と並行して治療を行う。
概日リズム睡眠障害・睡眠相後退症候群
体内時計に狂いが生じ、概日リズムが遅れるために、夜中から早朝の一定の時刻にならないと入眠出来ず、ひとたび眠ると昼過ぎにならないと起きられない症状。夜更かしがきっかけとなることが多い。また高齢者が早寝しすぎて、夜中に目覚めてしまう場合もある。
体内時計を徐々に戻すようにする。1時間睡眠時間を早めるのに1~2週間程度要する場合が多い。
不眠症の治療方法
また不眠症患者は「〇時間」眠らないといけないなどと、こだわり(思い込み)を持っている場合が非常に多いため、睡眠に対する意識の改善が必要である。
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薬物療法
睡眠薬の服用。入眠障害、中途覚醒、早期覚醒といった不眠のタイプをあきらかにして、適切な作用時間の薬を服用する。ただし精神疾患など別の病に原因がある場合は、同時に治療していく必要がある。
睡眠薬は、精神活動力の低下、断薬時の不眠悪化(反跳性不眠)、精神や脳機能の障害、精神的依存など副作用のリスクがあり注意が必要なので、自己判断での減薬、断薬は危険である。
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認知行動療法
薬物療法との併用も可能。
刺激制御療法…布団の中でで眠れずに苦しむといった脳内で条件づけられた睡眠の失敗パターンを断つために、夜は寝室以外でリラックスして過ごし、眠くなるまでは寝床に入らないようにする。さらに寝床に入って10~20分程度で入眠しないときは、離床するようにする。
睡眠時間制限療法…特に中途覚醒や熟眠障害に悩む人は、少しでも長く眠ろうと寝床の中で長時間過ごそうとしてしまう。睡眠時間制限療法は、寝床で過ごす時間を制限し、軽度の睡眠効果を利用して不眠改善を図る治療法。約2週間分の実際に睡眠できている時間を計測し、寝床に入る時間を平均睡眠時間のみに制限する。目安は、若年および中年で6.5~7時間、老年では6時間。
日中の過剰な眠気が出る睡眠障害
日中の眠気の原因は以下のとおり。
- 不適切な生活リズムによる睡眠不足
- 睡眠時無呼吸症候群
- レストレスレッグス・周期性四肢運動障害・アカシジアなどによる浅眠、途中覚醒
- ナルコレプシー
- 突発性過眠症
- ASD、ADHDの睡眠発作
- 副腎皮質の機能低下による睡眠障害
ナルコレプシー
ナルコレプシーは、反復する日中の発作的かつ強烈な眠気、居眠り(睡眠発作)を主症状とする睡眠障害。中枢神経の機能障害が原因。本来レム睡眠中のみに起こる強力な※錐体路抑制機構が覚醒中にも作動してしまう「レム睡眠解離現象」と考えられている。
※錐体路…大脳皮質の運動野から脊髄に向かって下行する運動性伝達経路のひとつ。
ナルコレプシー患者は、脳内において、食欲や睡眠の制御に作用する神経ペプチドであるオレキシンが低下している。
ナルコレプシーの症状
- 日中に耐え難い眠気に襲われ、場合によっては10~20分程度居眠り、その後目覚めるが1~2時間後には、再び強烈な眠気が襲ってくる。
- 情動脱力発作(カタプレキシー)…喜怒哀楽の感情が強く働いた時に,全身あるいは膝,腰,あご,まぶたなどの体の筋肉の力が突然抜けてしまう症状。発作中にも意識はあることが多い。
ナルコレプシーの治療法
薬物療法がメイン。
日中の眠気…モダフィニール。
情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚…抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSPI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
突発性過眠症
日中に過眠があり、1時間以上の昼寝をすることが多い。昼寝によってもリフレッシュせず、眠気は増加し、さらには夜間睡眠も増加する。
昼寝をしないでいると、記憶力・集中力が低下し、何も手につかないほどになる。無理やり覚醒を試みると、睡眠酩酊がみられる。
レイノー氏病、起立性調節障害、自律神経障害など別の病気がベースに存在するケースもある。
治療は、ナルコレプシー同様、対象療法的に精神刺激薬を使用する。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時に気道が閉塞し、大きないびきをかき、呼吸が一時的に停止する。呼吸が停止すると、血中酸素濃度の低下により覚醒する。
睡眠の質的低下のため、日中の強い眠気、気力・集中力の低下をきたす。
ASD、ADHDの睡眠発作
ASD、ADHDの人は、できないことや嫌なこと、退屈と感じることをやろうとしたり、怒られたり説教されると突然強烈な眠気に襲われる症状を抱えることが知られている。
眠気に襲われているときの症状は、ナルコレプシーの過眠症状に酷似しているが、ナルコレプシーと大きく異なるのは、ASD、ADHDの睡眠発作は「興味のないこと」に遭遇したとき限定だということである。一方で、関心のあることには熱中し、眠気も吹き飛ぶ。
最近の筑波大学の研究で、モチベーションを高めると脳の側坐核が活性化し、覚醒状態になることが確認されている。
興味や関心が脳内の覚醒度に働くのだとすると、ASDやADHDのように関心の領域が限定されている性質の場合、やる気や意欲が向上する機会が少なく、逆に嫌なことに遭遇した場合、低覚醒になることも仮説できるともいえるが、現在、明確なエビデンスはない。
一種のストレス性の解離や(ストレス性の)睡眠発作であるとの説もあり、その場合は解離性障害やPTSDの二次的障害とも考えられるが、いずれも生理機能を検証中である。
副腎皮質の機能低下による睡眠障害
副腎皮質ホルモンである鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドの産生を行うことで、ストレス反応を調節する臓器。
ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールは、糖質コルチコイドの一種。コルチゾールの分泌量は、ストレスや精神状態、気力、記憶、睡眠・覚醒に大きく関与する。
健常な身体では、コルチゾールは朝に多く分泌され、夜になると分泌量が低下していくところ、副腎皮質機能が低下した身体では、コルチゾール分泌の調整ができず、夜になっても興奮状態が続き、入眠障害や朝起きられないといった睡眠障害を引き起こす。
コルチゾールの分泌異常による影響
コルチゾールが頻繁に過剰分泌されると、自律神経系や内分泌系の支障をきたす。自律神経失調症、不安症、うつ、記憶力・集中力の低下、睡眠障害、体重増加、心疾患の原因となる。
辛く恐い体験などの記憶はストレスとなり、睡眠障害を引き起こすのみならず、ストレスホルモンであるコルチゾールを大量分泌させてしまい、海馬を侵害する。
カフェインは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させる。
ストレス反応による睡眠発作
ストレスとなる事象に直面すると、コルチゾールやアドレナリンが大量分泌され、緊張状態になる。
ストレスが長期間続くと、大量のコルチゾール分泌によって副腎の機能が低下する。
ストレスは、精神的な要因だけでなく、脳機能の障害、糖質の過剰摂取など偏った食事による腸の炎症や、不衛生な部屋の空気を吸うことによる感染症など身体的な要因もある。
怒られる、虐待を受けるなど強いストレス要因に直面すると、コルチゾールが急速に大量分泌されると、同じく急速にコルチゾールを分解しようとするストレス反応が作用することで、分解が上回り急激な眠気に襲われることがある。この状態は、ストレス性の睡眠発作という。
参照:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/69/1/69_1_11/_pdf
https://www.excite.co.jp/news/article/Techinsight_20151203_163745/
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/041000096/?P=1