発達障害、PTSD、パーソナリティー障害に関連する脳機能

PTSD、トラウマ

※思ったより長いまとめになったので、精神に関するところにはマーカーをひいています。

(大)脳の構造と精神作用

大脳とは、脳の大部分を占める左右1対の半球状の塊。大脳皮質、大脳基底核、大脳辺縁系、前脳基底部、髄質で構成される。
大脳皮質は、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉、辺縁葉に分けられる。左右両半球の表面は大脳皮質という神経細胞の集りからなる薄い層があり、部位ごとに知覚などの感覚、(随意)運動、記憶・思考などの高次脳機能、精神作用を司る。

大脳の構造

大脳の奥深くには、皮質辺縁系・視床下部で構成される大脳辺縁系(limbic system)と呼ばれる器官があり、記憶や情動(一時的で急激な感情の動き、情緒)、呼吸、意欲、三大欲と呼ばれる本能などさまざまな生理機能や自律神経の活動に関与する。
皮質辺縁系(梨状葉、海馬、帯状回、後眼窩回、側頭極など)・基底核 (扁桃核、中隔核など)・視床下部(※内部器官は省略)の各パートもさらに構造ごとに細分化された器官がある。

※参照 https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A7%E8%84%B3%E8%BE%BA%E7%B8%81%E7%B3%BB-91869

大脳皮質の各器官の働きと精神への作用

前頭葉(ぜんとうよう)

前頭葉は、中心溝(頭頂部付近)より前方にある広い領域。前頭葉のうち、最前部には前頭前野、次に最後部には一次運動野があり、これらの間に、高次運動野がある。

前頭葉の構成要素とその働きは以下のとおり。

→前頭前野がうまく機能しないと、落ち着きや集中力がなく、衝動もおさえられない、勉強ができず、記憶力も悪い発達障害のような性質になる。

  • 前頭葉の前部には、前頭前野という領野があり、知覚・記憶・学習・思考・判断力などの認知機能…いわゆる高次脳機能の中枢を司る。
    表情や声のトーンから受け取る感覚の判断処理問題にがあると、社会性に問題が生じる。
    また前頭前野に障害があると、複数の作業を計画立てて行動するマルチタスク作業、情動の制御に問題が生じる。

    ADHDは、前頭前野に機能障害があると考えられている。

  • 上前頭回(じょうぜんとうかい)は、運動の計画、作業記憶や注意など多様な認知機能、感覚情報の統合、意思決定、行動計画に関与しているとされている。
  • 中前頭回(ちゅうぜんとうかい)は、新しい情報や刺激があったときの意味の理解やカテゴライズ処理に関与しているとされている。
  • 下前頭回(かぜんとうかい)は、言語の発話や文法の理解、感覚情報の統合、意思決定、行動計画に関与しているとされている。
  • 中心前回(ちゅうしんぜんかい)は、色体を動かす実行と計画に関与しているとされている。
  • 前頭極(ぜんとうきょく)は、将来の予測や来週の計画設計など未来について考えることに関与しているとされている。
  • 直回(ちょくかい)は、意思決定などの認知処理に関与しているとされている。
  • 眼窩回(がんかかい)は、嗅覚や報酬(食事やセックスなど)に基づく意思決定に関与しているとされている。
  • 前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)は、現在の行動によってどのような未来の結果が生じるかを決定する能力、確定したゴールへの行動、成果の予測、行動に基づく期待、衝動の抑制に関与しているとされている。
  • 一次運動野(いちじうんどうや)は、身体の運動に関与する。

側頭葉(そくとうよう)

言語、聴覚の処理、視覚情報からの長期的な記憶を司る。
側頭葉の各器官の正確な働きはまだ十分に解明されていないことも多い。

前頭葉の構成要素とその働きは以下のとおり。

  • 上測頭回(じょうぜんとうかい)は、自己認識や笑いに関与する。
  • 中側頭回(ちゅうそくとうかい)は、距離の認知、顔認知、字を読むときの単語認知などに関与しているとされている。
  • 下側頭回(かそくとうかい)は、視覚対象の特徴(色や形状)や顔の認識に関与しているとされている。
  • 紡錘状回(ぼうすいじょうかい)は、色情報の処理、や顔と身体の認識、単語認知、数字認知、抽象化に関与しているとされている。
  • 横側頭回(おうそくとうかい)は、聴覚情報の処理に関与しているとされている。
  • 側頭極(そくとうきょく)は、意味の記憶や相貌認知(顔を見分ける処理)、他者の心的状態を推理するといった情動作用に関与しているとされている。
  • 側頭頭頂接合部(そくとう とうちょう せつごうぶ)は、精神作用、自他の区別、体外離脱体験(幽体離脱)、離人感に関与しているとされている。
  • 一次聴覚野(いちじちょうかくや)は、聴覚に関与する。

頭頂葉(とうちょうよう)

身体の様々な部位からの感覚情報の統合や、数字に関する知識や処理などに関する機能に関与するが、他の3つの大脳葉に比べてまだ解明されていないことが多い器官である。

頭頂葉の構成要素とその働きは以下のとおり。

  • 中心後回(ちゅうしんこうかい)は、皮膚・筋肉・腱・関節からの感覚処理に関与しているとされている。
  • 上頭頂小葉(じょうとうちょうしょうよう)は、空間的注意に関与しているとされている。
  • 下頭頂小葉(かとうちょうしょうよう)は、言語、数学、注意などの認知能力、言葉の音韻処理、時間の長さの判断、言語の理解や認知に関与しているとされている。
  • 楔前部(けつぜんぶ)は、想像力やエピソードの思い起こしに関与しているとされている。
  • 中心傍小葉(ちゅうしんぼう ょうよう)は、足・脚の部分の体性感覚(温度や痛みを感じる皮膚感覚と筋や腱、関節などに起こる深部感覚)や運動に関与しているとされている。

後頭葉(こうとうよう)

視野の処理、視覚や単語の処理に関与する。

大脳基底核の各器官の働きと精神への作用

大脳の深い所にある。運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習など様々な機能に関与する。
大脳基底核の障害は、睡眠障害・認知障害・不安・うつ・物忘れ・気分障害など多彩な臨床症状があり、最近はパニック障害(PD)ASD、ADHD、妄想性障害と大脳基底核の関連も示唆されている。

パーキンソン病(ドーパミン不足と相対的なアセチルコリンの増加が起こる病気)は、大脳基底核変性疾患の代表的なものとされている。

線条体(せんじょうたい)

運動機能、意思決定や行動選択(依存や快楽)、最近では報酬予測に基づく強化学習にも関わると考えられてる。
線条体が機能低下により対人恐怖症、社会恐怖症になるケースが多いと言われる。

淡蒼球(たんそうきゅう)

GABA(ギャバ)作動、運動機能に関与する。

  

パーキンソン病患者の手足の振戦や老人にみられるジスキネジアや、抗精神病薬を長期服用によって口唇の不随意運動がみられる遅延性ジスキネジアという病気は、淡蒼球が関与しているといわれている。

視床下核(ししょうかかく)

淡蒼球からGABAの入力を受ける。運動する際の動作の微妙な調節を行う。

黒質(こくしつ)

線条体にドーパミンを送り興奮を抑制する。
線条体へのドーパミン量の減少がパーキンソン病発症の原因になると知られている。

大脳辺縁系の各器官の働きと精神への作用

前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)

大脳皮質に属する器官。血圧、心拍数、報酬(食事やセックスなどの快楽)の予測、意思決定、共感力、情動といった認知機能に関与する。

この領域の機能に関しては、まだ論争が存在するが、以下の5つに関しては比較的合意が成されている。

海馬(かいば)

大脳辺縁系に属する神経細胞の集団。視覚・嗅覚・聴覚から得られる記憶(短期記憶)、学習能力、空間認識能力に関与する。
心理的ストレスに非常に弱く、心理的ストレスを長期間受け続けるとコルチゾールの分泌が続くことにより、海馬の神経細胞が破壊され、海馬が萎縮する。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者やうつ病患者には、海馬の萎縮が確認されている。

海馬の萎縮、機能障害、損傷が起こると、記憶障害が起こったりや健忘症になったりすることが証明されている。 ※海馬の萎縮は、統合失調症、アルツハイマー病とも関連する。

恐怖・攻撃・性行動・快楽反応・情動行動制御にも関与している。

海馬と扁桃体は、海馬傍回(かいばぼうかい)をとおって常に情報が行き来するため、精神の不調や記憶機能不全はこの領域の調節が障害されていると考えられる。

海馬は、脳トレなどのリハビリや運動、創造的な思考・行動によって神経細胞が活性化し、改善できることが確認されている。

帯状回(たいじょうかい)

大脳辺縁系に属し、大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たす器官。感情処理、共感力、学習や(感情的な)記憶、意志決定、清潔さに関与する。
帯状回に問題があるとこだわりが強くなり思い込みをしやすく、思考の切り替えが困難になり、他人の意見に耳を貸せない性質になることが示唆されている。
ASD患者は、後部帯状回での自己関連活動が低下していることが確認されている。

ワーキングメモリ(作動記憶、作業記憶=ごく短期の記憶機能)は、前頭前野と帯状回が協調して働いてる。
ワーキングメモリの機能を活性化すると、精神の病的状態や非行犯罪が改善され、再発防止が期待できる。
ワーキングメモリの機能向上には、認知行動療法が有効である。

呼吸器系の調節とも関わりを持つ。

アルツハイマー病(AD)では帯状回皮質の機能が低下し、強迫性障害(OCD)では帯状回皮質の機能が亢進する。
強迫性障害は複雑性PTSDと併発しやすい障害。しかし、最近の研究で、強迫性障害は脳内の神経伝達物質の一つであるセロトニンがうまく働かないことが影響した障害が示唆されている。

※ワーキングメモリの改善とは、帯状回情動領域の沈静化と帯状回認知領域+前頭前野の活性化を図ることである。

扁桃体(へんとうたい)

恐怖感・不安・喜怒哀楽など情動処理(情動調律)や直観力、痛み、価値判断(好き・嫌い、快・不快、善・悪などの判断)、ストレス反応に関与する。
情動的なイベントに紐づく記憶の形成と固定、記憶の強化に関与している。
特に不安や緊張、恐怖感に重要な役割を果たす。

精神状態に重要な役割を持ち、自閉症スペクトラム障害(ASD)や多くの精神障害に関係していることがわかっている。
恐怖体験や逆境体験に遭遇すると、扁桃体の過剰活動がみられる。PTSD、パーソナリティー障害などより重症であるほど、扁桃体の過剰な活動が大きくなることが報告されている。
衝撃的な出来事を体験すると、海馬を通して大脳に記憶として生涯的に残る。衝撃的な記憶を反復して思い出す事により扁桃体が過剰に働く。
場合によっては、記憶を反復している間に記憶が書き換えられているとも考えられえている。

まだ動物による実験結果ではあるが、扁桃体が損傷していると、物理的な虐待や育児放棄を行うことが確認されている。
自閉症スペクトラム(ASD)、双極性障害、社会適応能力との関連性も確認されている。

自閉症スペクトラムの知覚過敏、興奮しやすい傾向、睡眠障害などに扁桃体機能の異常が関与していることがわかっている。

ストレスホルモンによる交感神経の活性化(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの放出)に関与する。
強い不安や恐怖、緊張状態が長く続くと扁桃体が過剰に働き、ストレスホルモンが分泌される状態となり、その状態が長期間継続することにより神経細胞が萎縮してうつ病”症状が発現すると考えられてる。

脳下垂体(脳の下部にある器官)からオキシトシンが分泌されると、扁桃体の働きが抑制され、恐怖心や不安、警戒心が緩和される。

側坐核(そくざかく)

大脳辺縁系に属する神経細胞の集団。側坐核の働きの大部分は、「やる気伝達物質」と呼ばれるGABAの産生である。ヤル気、意欲に関与する。

快楽を司る神経細胞の集団であるため「快楽中枢」と呼ばれる。
報酬(食事やセックスなどの快感)、嗜癖、恐怖などに重要な役割を果たすと考えられている。

側坐核の神経活動の調節は、中脳領域にある腹側被蓋野(ふくそくひがいや、VTA)からのドーパミン入力(=インプット)によって行われている。
ドーパミンの入力が多いと側坐核の働きが強くなり、側坐核でドーパミンがさらに増加し興奮状態となり、快楽を得る。
そのため嗜好性の高い食物や薬物は、嗜癖に嵌りやすく、依存症などの精神依存をきたす。
逆に腹側被蓋野からのドーパミン分泌量を抑制すると、幻覚・妄想を抑制できる。

側坐核のドーパミン放出は、側坐核のGABA受容体の活性化によって抑制されると示唆されている。

側坐核に入力する器官は、ほかにも前頭前野、扁桃体、海馬がある。
脳下垂体(脳の下部にある器官)からオキシトシンが分泌されると、側坐核で快感が生まれ、愛着の情動が出現すると考えらている。

側坐核の働きが強いほど嘘をつきやすいことが突き止められている。

音楽によって惹起される感情の調整に関与することも報告されている。

視床下部(ししょうかぶ)

自律神経機能を調節(ホルモンの産生と放出)

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